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傷だらけの天使 [テレビドラマ・映画鑑賞]

70年代に放送された日本のドラマ[カチンコ]とにかくキャストが最高で勢いのあるドラマで、全話1話完結モノで、最低限のシリーズとしてのストーリー設定以外は毎回行き当たりばったりの適当な筋書きという印象が強く、実験的な色合いが濃い作品だと思う。

先を行きすぎていて、当時のお茶の間には理解されなかった向きがあったらしいが、今観ても新鮮。
ショーケンや水谷豊さんも若くエネルギーに満ちていて、この2人が最も良い時期の作品だと思う。

配役が適材適所で、今改めて見ても、各役者が得意とする演技を演じており、観る側からは「待ってました!」と、最も見たい演技をしてくれる。
特に和製ドラキュラという風貌の岸田森さんと、実の従弟にあたる岸田今日子さんの演技が絶妙で、芸術の域に達している。
岸田今日子さんは、探偵事務所でかける「マヅルカ」のSPレコード版にも拘り、当時廃盤で入手困難なレコードを知り合いから借りた程。

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名俳優従兄弟の競演だ

強烈な個性が全力でぶつかり合っての爆発という感があり、非日常的アバンギャルドな世界がスリリングに展開する。

このドラマを今改めて見て思うのは、当時の東京の風景と現在の違いだろう。

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修と亨が綾部事務所から借りて住んでいたペントハウスは代々木のビルでのロケ、このビルは今も存在する

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JR上野駅も、こんなだった…駅のプレート文字が手書きだ

というのも、俺が最初に東京に行った時、同じ雰囲気が微かだけど残っていたのを思い出した。

修学旅行や、それ以前にもひかり号に乗って東京に家族で旅行したけど、街の臭いをかぎ分けられる年齢ではなく、その後、大阪でやっていたバンドの演奏で東京に来た時、対バンのメンバーさんに挨拶しようと、彼らのバイト先の原宿に出かけた。
そこには、傷だらけの天使の背景である70年代の東京の残像が微かだけど残っていた。

当時の原宿は今のような女子学生の遊び場では無く、不良のたまり場という感じで、危険な香りの残像が残っていた。
1つ間違えば大やけどするかも…って、俺の動物的勘が察知した。
当時、目黒にはライブハウスなんて無かったと思う…とにかく、当時の俺たちは渋谷、原宿、新宿でライブをやっていた…その後数え切れないほど大阪から東京に来たが、そのころは池袋なんて何処にあるかも知らなかった。

俺がバンドの演奏で東京に初めて来たときの感想は、「思っていたよりメチャクチャ田舎」だった。
大阪では電車の駅は既に自動改札だったが、東京ではまだ駅員が切符を受け取っていたのにはガッカリした。
何より田舎を連想させたのがカラスの多さで、ゴミ回収が深夜に行われる大阪市内と違い、今でも昼間に行う東京ではゴミを餌にするカラスが都心に巣くっているが、大阪でカラスを見るためには相当な田舎に行かなければ飛んでいない。
また、大阪には迷路の様に延々と地下街が続いているが、東京には殆ど無い事にも驚き、人だけは多いが雨が降った日には「凄まじく便利の悪い所やなぁ」と思った。
後、驚いたのが「緑の多さ」で代々木公園など、新宿と渋谷の間にあれだけの緑がある事に肩すかしを喰らった。

実際に都心に住んでいるのは江戸っ子では無く、ほぼ全てが田舎から上京してきた地方出身者だという事を知り…田舎モノでも「オレさあ」なんて話せるようになれば東京人として許してくれる街の度量の深さが、大阪という生存競争の激しい気の荒い街で生きてきた俺には心から落ち着けるお気に入りの街になった。

当時の原宿や渋谷は大人の街というよりは…不良の街って雰囲気だった。
今思い返せば、それは、更にその時代から遡った、俺が大阪でバンドを始めた頃のアメリカ村の雰囲気に似ていた。
当時のアメリカ村の三角公園なんて、怖くて日が暮れれば近づけなかった…レゲエが多く、夜になると三角公園でドラム缶でたき火をしていた。
今思えば都市伝説的噂なんだろうけど、冬場の三角公園のドラム缶の火は「命の火」と呼ばれていたし、「ワンカップ1コの代金欲しさに殺される」という話しも聞いた。
70年代のニューヨークのダウンタウンみたいな殺風景で薄汚い街の中に、一体何の店かサッパリ判らない店がポツンポツンと点在していて、人も少なく、野良犬がウヨウヨいた。
リハスタジオも少なく、リハで店に入っても何処から何処までがスタジオなのか判らない、ガラクタが山積みされている倉庫みたいなところもあった。

当時の原宿とアメリカ村の共通項は、経営者の年齢で、皆若く、その後同じ様な街に発展させるエネルギーはあった。

現在、アメリカ村も原宿も、女子中学生が親同伴で楽しめる「女子供」の街として栄えている。
街からドンドン不良のたまり場が消え…というか、ヤクザ同様、不良が一般人と見分けが付かなくなった。
つまり、ファッションの発信源が「不良」から「女子供」に代わったという事なんだろうけど、70年代ど真ん中に作られた「傷だらけの天使」が、当時の若者に衝撃を与え、街のファッションをリードしている主役は「女子供」では無く「不良」だった。

今のドラマ制作の様な低予算、下請け会社に丸投げ、電通が「人気者」としている使い捨て、台詞もまともに話せないタレントの文化祭演技等々の腐りきったドラマではなく、「傷だらけの天使」は、当時の日本映画界を代表する恩地日出夫、深作欣二、神代辰巳、工藤栄一らが参加し、毎回豪華なゲストが出演した豪華な力作だった。

原作者の市川森一さんは、当初このドラマの脚本を同性愛者の物語として書いたが制作サイドの反対に遭い、路線を変更している。

有名なオープニングは井上堯之バンドのテーマ曲で始まる。
ショーケンが皮ジャン、大きなヘッドフォンに水中眼鏡付けトマト、コンビーフ、ソーセージをガンガン食べ、瓶の牛乳の蓋を口で開けて飲む。

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このショーケンが最高にカッコ良かった!

このシーンはセックスを表現していて最後に射精で牛乳を吹き出すシーンだったらしいが、下品であるということと、食べ物を粗末にするなというスポンサーからのクレームで吐き出す寸前で画像をストップしている。
もう、この時点で充分カッコ良いが、この後松田勇作が真似をしている「探偵物語」ではコーヒーを吹き出しているので、アイデアが世間の感覚より先を行きすぎていたんだと思う。

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渋谷の街も今とは違い、薄汚れていて全然ダメ!

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渋谷道玄坂のロケ

このドラマのロケは東京の都心部を中心に行われているのだが、どの街もこ汚く殺風景で「ああ、日本も昔はこんなだったんだ」と、改めて思った。

まだまだ経済成長期の後進国丸出しで、排気ガスや工場の煤煙などで街の空気が濁っている中で、ひたすら元気に動き回るショーケン演じる修と、水谷豊演じる亨の、明日無き「目先30センチ」の生き方が…せつなく、シャボン玉の様に儚く危うい。

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金が無く、シケモクを奪い合う修と亨

修と亨の「子供」な兄弟分に、綾部探偵事務所の女社長、綾部貴子と、その部下辰巳の「大人」が命じる理不尽な指令に訳も判らないまま翻弄される姿が悲しくも笑える。

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いつも劇暗なマヅルカのレコードをアンティークなプレイヤーで聴いている綾部社長


戦後の焼け野原からひたすら上向きに走り続け、万博という狂気の祭りを終え、列島改造から一転してのオイルショックで立ち止まると…古い日本を壊しに壊し、光化学スモッグの煙幕の向こうに見え隠れした「夢の未来」に「大人の嘘」が路程し、信じて破壊してきたモノが、実は取り返しの付かない事だったのでは?と疑問が擡げだした…祭りの後の気怠いノッキング状態の時期にこのドラマは制作された。

修と亨の日常は、次々と自然が破壊され、日本人が初めて経験する公害などの近代化からの副作用が降り積もる、無機質な都会で、新しい何かを作り出そうとする藻掻きの様でもあり、世紀末に向けた従来の道徳的価値観や人間的な暖かさからの離別の様だ。

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ビルの数が少ない殺風景な新宿副都心


大昔延々と続いてきたこの国の村社会という舞台が崩壊し、共同体がバラバラになった後に出てきた個という空虚の中を、使い捨てられた塵の中を、埃にまみれて「自由」に走り転がる修と亨…決して幸せじゃない、金も無い…メタンガスの吹き出る真っ黒な川の土手に咲いたやせ細ったタンポポの様なカッコ悪い若者達を、このドラマは見事に描いている。

「傷だらけの天使」は70年代の若者の風俗に影響を与え、リードする存在感とエネルギーに満ちていたが、その後の日本のドラマ制作にそれが継承されたとは到底思えない。

その後、東京湾の魚の内臓からダイオキシンが消える様に、日本のドラマから毒が消え、ピンセットで小骨を抜いた焼き魚の様に、過激な暴力シーンが姿を消し、放送禁止用語に即した台本を用いた、「女子供」が安心して見られる「児童向け絵本」になってしまった。

テレビ局は作ることを放棄し、制作費をピンハネして下請けに丸投げ、関心事は電通がリベートの金額で操作する視聴率と、タイアップの主題歌の売れ具合、スポンサー様が抱えているタレントの起用…そんな条件で作るドラマですら、最近は制作費が殆ど0のお笑いが出るトークバラエティーや、クイズに取って代わっている。
トークバラエティーなんて、スタジオに椅子を置くだけで、後はお笑いタレントの楽屋話を延々垂れ流し、話しているタレントより、その話しを他のタレントが「どういう顔をしているか」を抜いて流している…そんなの、見たくもないし興味もない。
クイズ番組も、内容が「世間一般の雑学や常識」が問題で、アホ面のタレントが漢字を読めるか?を延々流しているが、そもそもそういうのは回答席に座るのは素人だったのが、いつからタレントが参加する様になったんだ?

つまり、今のタレントは素人と代わらないという事を意味している。
その素人を、「テレビに出た」というだけで「有名人」にしているのは、テレビ局だ。
何の芸も修行も積んでいない素人をテレビに出して「有名人」にし、「有名人」をドラマに出して金を稼いでいるというカラクリ錬金術で、セットの制作やロケに金が掛かる時代劇なんて、もう作らなくなっている。

これは…一体どういう事なんだろうか?

番組を作って利益を得る、それを追求すれば今の流れになるって事は判ったが、別にそれはドラマ制作だけの事では無く、音楽制作も同じで生楽器の音をスタジオで録音するなんてコストの掛かることは加速度的に消えている。
別にテクノロジーが進化した事が原因だとは思わない。
思うに、現場に携わっている人間の質そのものが低下しているんだと思う。
制作費節減でスタジオミュージシャンさえ使わずに、偽物の楽器音が出るコンピュータの打ち込みで作っていたが、今や、その打ち込みの偽物の音が当たり前の音楽として聴いて育った、「ホンモノ」を知らない人が制作現場に居る…こうなると、最早手遅れで取り返しようがない。

映像もテレビ局という、創世記には職業として世間では胡散臭く思われていたのが、今や最も花形の職業に変わり、何かを作りたいという優秀なクリエイターより、より高学歴な高額の収入を求める人材に取って代わったのが原因だと思う。
タレントという謎な職業も、昔はチンピラレベルのステイタスだったのが、今や特権階級の職業として歌舞伎役者の様に世襲制と化している。
2世、3世タレントは、修行とは無縁で、ライバル達と切磋琢磨することなく、親の威光で最初からもてはやされ、貴族の様に扱われている。

利益を追求する事のみを追いかけるテレビ局で、貴族階級のタレント共が独占する電波を、わざわざ貧乏人がハイビジョンを買い、高画質で見ている…それをあろうことか「文化」と呼ぶ馬鹿まで存在するんだから、この国に文化なんて既に滅んでいる。

何ともくだらない時代になり、昔は正月期間限定だった「見るテレビ番組が無い」のが、今は「常時正月状態」になっている。

1974〜5年に制作された「傷だらけの天使」は、まだ手作りの良さというか、「意気込みを持って作れば送り手に伝わるはず」という魔法が微かに生きていた時代で、遊び心に満ちていた。

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お約束のニュース画面

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毎回綾部事務所の仕事はやらないと言いながら、金に困った修が仕事を受けるところからストーリーは始まる

糸の切れた凧状態の登場人物が、場当たり的なストーリーを進むが、このドラマの本当の姿は最終回にある。
瀬戸内海に橋を通す事業で綾部探偵事務所の悪事が露見し、社長以下社員はちりぢりに逃げる。
何も知らない修は、月極駐車場に車が無い事で、綾部事務所に出向くが、荒れ果てた事務所で待っていたのは後に水戸黄門になる西村晃さんが演じる海津警部だった。
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ペントハウスに戻ると、森本レオさん演じる工務店の現場監督が、ビルを壊してマンションを建てるので、立ち退きを宣告される。
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海津から真相を聞かされた修は綾部社長を捜すが、横浜の中華街で中国人から社長は既に海外に高飛びしたと知らされるが、社長はそこに匿われていた。

修は行方不明の亨を捜し、オカマバーで働く亨を見つけ叱りつけるが、知り合いのバーのママから亨が貯めた金で修と修の一人息子の健太と一緒に、東京から離れた田舎で一緒に暮らす夢を聞かされる。
亨は金持ちの土地成金の息子から金を巻き上げるための賭けゲームで負け、雪の降る中噴水に入り風邪をひく。
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亨の真意を知った修は金を作るため、綾部社長を捜していると、綾部事務所の電話受付の京子から連絡があり、新宿西口で故郷で結婚する事に決めた京子から綾部社長が修を連れて行きたがっているという社長の伝言と偽のパスポートを受け取る。
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社長に付いていくことに決めた修は、ビルが取り壊される事が決定しているペントハウスに戻り、風邪をこじらせた亨に一人息子の健太の面倒を頼み立ち去ろうとする。
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風邪でフラフラの亨は修を引き留めるが、修は強引にタクシーで立ち去り、社長が待つ港に向かうも、亨の病状が気になり引き返し、港には綾部社長が無事船に乗るのを見届ける変わり果てた辰巳がいた。
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海津警部が綾部社長を逮捕に現れるが、辰巳が包丁で脅して阻止する。
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辰巳が海津に逮捕されているとき、綾部社長は無事船に乗り込み高飛びに成功する。
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ペントハウスに戻った修は、屋上で息絶えている亨を見つける。
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亨を風呂に入れ、服を着せているとき、ビルを壊す工務店が現れ、今すぐ立ち退けと命令する。
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修は亨を背負い、ビルから出て行く「アキラ…まだよぉ、まだ墓場には行かねえからよ!新宿のトルコ(ソープランドの事)でもよ!川崎のトルコでもよ!ナンボでもやらしてやる!俺今日おごってやる、いっぱい!」
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広大な夢の島の中を、亨を入れたドラム缶を積んだリアカーを牽いて進む修。
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ドラム缶を降ろした修はリヤカーを牽き立ち去るシーンでドラマは終わる。
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その後、オマケとして短い撮影シーンがあり、死んだ亨も参加しての格闘シーン〜撮影終了でロケバスに乗り遅れたショーケンがバスの後を追うところで番組は終了する。
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後に市川森一さんはこのドラマを「13人の脚本家と監督による壮大な実験劇」と表している。
つまり、「傷だらけの天使」は、テレビ局に壮大な実験劇を行える度量があった良き時代の遺産だと思うのだ。
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